RoAD to the L4 自動運転レベル4等先進モビリティサービス
研究開発・社会実装プロジェクト

「奥永源寺渓流の里」を拠点とした自動運転サービスが、将来の中山間地域のスタンダード!?

道の駅駅長小門信也氏、東近江市都市整備部公共交通政策課山本享志氏、須田良行氏にお話をうかがいました。背景には黒板があり、中学校の面影が残っています

2021年4月23日から、全国で2か所目に本格的にサービスを開始した、道の駅「奥永源寺渓流の里」を拠点とした自動運転サービス。サービスを実施してみての感想や展望について、拠点となっている道の駅「奥永源寺渓流の里」駅長の小門信也氏、実施主体担当課の東近江市都市整備部公共交通政策課課長の山本享志氏と東近江市都市整備部公共交通課課長補佐の須田良行氏に聞いた。

道の駅「奥永源寺渓流の里」では、2017年11月に先進モビリティが開発したマイクロバスタイプの車両を用いたレベル4の実証実験を実施。今回の自動運転システムは、ヤマハのゴルフカートを改造した6人乗りを、運行ルート上に電磁誘導線を敷設して運行している。

自動運転サービスが村に馴染んでいる

楠田 走り始めると心地よい風がそよぎ、日本の原風景を楽しむことができた。住民の方がとてもやさしく、私のよ うなよそ者に対しても、知らない人が勝手に村に入ってきたという目ではなく、ニコニコしながら気さくに手を振って迎えてくれた。自動運転システムが村に馴 染み、自動運転システムが走ることにより観光客と住民との一体感が生まれていると感じた。

小門駅長 奥永源寺の地域は、昔から川遊び、キャンプ、紅葉などを目的に、観光客が訪れる観光地です。国道にト ンネルができたことで、京都、大阪方面のみならず、愛知、三重、岐阜などの東海地域の観光客が増えました。そのため住民は村のなかで観光客を見かけても抵 抗がない。警戒心がない。洗濯物も干しっぱなしで、玄関は開けっ放し。おおらかな人が多いのかもしれません。

山本課長 滋賀県内の都市部の公園がコロナ禍で閉鎖されていたため、奥永源寺に観光客が流れてきています。自動運転は、高齢者の移動手段の確保と交通事業者のなり手不足の確保のために始めました。しかし、観光客向けの地域周遊用のモビリティとしての活用も悪くないと感じました。

楠田 奥永源寺での暮らしはどうなのか。滋賀県と三重県の県境にある山奥の谷間の集落で、自分の家の田畑を耕して野菜をつくり、近所づきあいを大切にしている地域だと感じられました。買い物や通院などはどうしているのでしょうか。

小門駅長 奥永源寺には、いま7集落あり、150~160軒、約360人程度の住民数だと思います。昔から顔見 知りで、親戚のような人ばかり。わたしはもう奥永源寺在住ではないのですが、この中学校に通っていた頃は同級生が約20人いました。若い人が不便な村を出 てしまっていて、今は老夫婦の世帯か、独居の高齢者世帯ばかり。たまに50~60代の夫婦もいますが、若い30代の世帯はないかもしれません。いったん村 から出た人は戻って住むことはなく、まだ残っている家のお守りをするためにたまに戻ってくる人はいますが。

わたしの母親は今85歳で、65歳のときに「運転するのがこわい」と言って運転免許証を返納しました。買い物は休みの日に私が母親を連れてクルマで 三重県に行ったりします。月1、2回の通院に、母はコミュニティバスの「ちょこっとバス」を使っていて、朝8時にバスに乗り、診療や買い物を済ませて12 時のバスで戻ってくるというパターン。

クルマで街中に通勤している人は、その帰りに買い物に行っています。また近所の人のクルマに乗せてもらって、買い物や通院に行く人もいますね。

地元出身だという小門駅長

人を運ぶだけではない。地域内の運搬にも使える

楠田 自宅から道の駅までの野菜の運搬に、自動運転サービスが活躍していると聞きました。

小門駅長 畑でジャガイモ、白菜、夏野菜などを作っていて、買い物に行かなくても自給できている人も多く、つくっても食べきれないので、道の駅の山里市場で売る人もいます。その際に、集落と道の駅を結ぶ自動運転が役に立っています。

これまでは作った野菜をクルマに積んで自宅から道の駅まで持って行き、あとから出店に使ったカゴを取りに行かないといけなかった。今は家の前に出しておけば、自動運転のドライバーが、野菜を運んでくれて、カゴも後から運んでくれます。

山本課長 貨客混載ができるようになり助かっています。今は、病院に診察に行って、処方箋を書いてもらって、あとから薬局が薬を届けてくれている。ちょこっとバスや自動運転バスを活用して、薬を届けるのもよいのではないかと思っています。

採れたて野菜が並ぶ山里市場
運搬に自動運転サービスが活躍

住民も歓迎「イベント的に終わってほしくない」

楠田 電磁誘導線を敷くために道路を切ったり、普段走っていない自動運転サービスが走ったりすることに対して、住民の反対はなかったのでしょうか。

山本課長 反対はありませんでした。自動運転サービスに対して自治会も歓迎してくれ、「イベント的に終わるなよ」と実証実験で終わらないように釘を刺されたほどです。

楠田 住民はあまり乗っていないと聞きましたが。

小門駅長 自動運転は道の駅を起点に集落のなかを周遊するコースになっていますが、そのコース上に目的地となる場所が少ない。しかも道の駅には、今日のおかずがないから、買い物に行こうかというような住民向けの品物が売っているわけではありません。

高齢者が道の駅で集うサロンが、新型コロナウイルスの感染予防で休みになっていますが、サロンが開催されるようになれば、自動運転車両に乗ってくる人も増えるでしょう。

山本課長 他の二次交通とのアクセスが悪い。また起点となるバス停が道の駅にあるのですが、自動運転サービスの 発着所がメインの建物から200m離れていて、使い勝手がよくない。道の駅は国道に面しており、速度の速い他のクルマと、ゆっくり走る自動運転の速度が異 なるため、メインの建物まで乗り入れができていない。これらを解決するため、歩道の一部を自動運転車両が走行できないかなど検討しています。

楠田 他の地域で横展開してほしいという要望はありますか。

山本課長 要望がたくさんあります。7集落のうち、2集落しか走っていないので、ほかの集落でも走らせてほしい という声が出ています。さらに、市街地でニュータウン開発されたところは、世代の多様性がなく子供が出て行っていて、同じ世代の老夫婦人ばかりが残り、隣 近所に買い物や通院を頼むことがでないため、自動運転サービスがほしいという声が議会から出ています。

ゴルフカートの車両はコミュニティ交通の補完として悪くない

楠田 中型バスとゴルフカートを使った自動運転システムの実証実験に取り組んだことがありますが、奥永源寺の地域にはどんな車両がいいと思いますか。

小門駅長 この地域は道が狭いので大きすぎる車両は向いていません。今使っているゴルフカートがちょうどいいと思っています。座席数が、一番前のドライバー席を除けば、乗客は4人しか乗れないので、あと2人から4人乗れるようになると嬉しいですね。

山本課長 コミュニティ交通の補完なので、今の電動カートが適正ではないかと考えています。大きな観光地があれば30人乗りのバスが最適かもしれませんが。もう少し車両価格は下がってほしいですね。

自動運転サービス導入の課題

楠田 自動運転サービスの導入で、一番問題になっていることは

山本課長 安全性を確保しながら持続していく仕組みづくりです。

全国各地で地域住民がドライバーになり、地域の移動を担う事例が出てきています。先行事例を見ていると村に唯一あったタクシー会社が潰れた、1本し かない路線バスが廃線になってしまったからどうしようと立ち上がったところが多い。しかし、はじめは自治会のシニア有志や社会福祉協議会などが志も高くは じめるのですが、初期メンバーが第一線から退くと、サービスが終了してしまう事例ばかりで、そこから10年間続いているところがありません。

また有志で形成する場合、安全運行や車両についての専門的な知識を有さないため、事故が起こった場合の対応が難しいのです。プロの事業者でなけれ ば、車内で転倒があった場合など補償をどうするのか、事故が起こった場合はどう対応するのか、この問題に対しても尻込みしてしまいます。

そのためプロの事業者が住民ドライバーと伴走する形が一番いいのではないかと思っています。緑ナンバー並のクオリティを維持しながら、白ナンバーで走ることができれば、乗る住民も依頼する市としても安心感があります。

自動運転サービス導入を後押しする山本課長

2020年11月に事業者協力型自家用有償旅客運送の新制度ができました。プロの交通事業者も先細りで、不採算路線を切らなければいけないなか、市 がサポートしながら、安全運行や健康管理のノウハウを持つ事業者が、白ナンバーのドライバーを雇用しながら運行を担うのがちょうどいい。これがスタンダー ドになっていってほしいと思います。

コミュニティバスは交通事業者に運行してもらっています。市や県、国からの補助金による事業委託のような形になっています。 同じような仕組みを自動運転の運行に適用させてもいいのではないか。公共交通のひとつの路線として位置付けるといいのではないかと思います。

また、自動運転サービスを要介護の予防として位置付けられないかと考えています。道路、橋梁よりも交通系の予算が少ないのですが、自動運転車両が集落を走ることにより高齢者の外出頻度が増え、健康促進にもつながる。こうした視点から予算の確保ができるといいですね。

楠田悦子
(Kusuda Etsuko)

モビリティジャーナリスト

心豊かな暮らしと社会のための、移動手段・サービスの高度化・多様化とその環境について考える活動を行っている。 自動車新聞社モビリティビジネス専門誌『LIGARE』創刊編集長を経て、2013年に独立。「交通政策審議会交通体系分科会第15回地域公共交通部会」、「MaaS関連データ検討会」などの委員を歴任。近著に『「移動貧困社会」からの脱却 −免許返納問題で生まれる新たなモビリティ・マーケット』(時事通信社)などがある。