RoAD to the L4 自動運転レベル4等先進モビリティサービス
研究開発・社会実装プロジェクト

日産自動車×NTTドコモの実証実験を体験してきました

日産グローバル本社ギャラリーからワールドポーターズまでの自動運転試乗

“MaaSは自動運転が普及する際のベースになる”として注目されている。実用化の際には、どのような技術実証や有人運行とは異なるサービス運用が必要なのだろうか。2021年9月から横浜みなとみらいで始まった、日産自動車とNTTドコモによる自動運転車両を用いたオンデマンド配車サービスの実証実験で体験することができた。

日産は2018年と2019年に実証実験をディー・エヌ・エーと行っている。今回はより商用化を意識して、21都道府県、46エリア、約48万人の運行実績があり、九州大学などで商用化しているドコモのデマンド交通「AI運行バス」を組みわせている点が特徴だ。ドコモも「AI運行バスの実績を積んできた。どう進化させてドライバーレスの世界に入っていくか、考えていくタイミングにきたと考えた。安全性に対して信頼度の高い日産と組み、腕を磨きたいと思った」と気合が入っている。

ドコモのMaaS「AI運行バス」×自動運転

デマンド交通はこれまで前日の予約などが必要であった。ドコモの「AI運行バス」のように、AIを用いて乗客からのスマートフォンなどによる乗降リクエストに対して、最適な車両と運行指示を出して、リアルタイムに使えるようになった。したがってルートは定時・定ルートがなく、あらかじめ決めた乗降ポイントを効率よく回るダイナミックルーティングを用いている。

AI運行バスはバスと名前が付いているが、2019年4月から実用化されている九州大学では、ハイエースを用いるなど10人以下の定員だ。有人で運行しており、EVの事例は少ない。

今年度のみなとみらいの自動運転を用いたAI運行バスの乗車の方法を紹介しよう。まずスマートフォンを用いて、決められた乗降ポイントの中から目的地を選び、配車リクエストを出す。ここから有人と無人の違いが出てくる。自動運転車が到着すると、スマートフォンに車両に書かれた4桁の「乗車コード」を入力し、シートベルトを装着した後に、車内にある「GOボタン」を押す。すると乗客の乗車を確認し、自動運転車両が動き出し、目的地に送り届けてくれる。

ユーザーエクスペリエンスの大切さを体感

日産のEVバン「eNV200」が自動運転車両として今年度も用いられている。

自動運転車といえば、大きなLiDARやセンサーが積んであり、一般の車両ではないことが一目でわかる。だが、この車両は自動運転車かどうか外見からわからない。商用化を目指して、カメラ14台、レーダ3台、レーザスキャナー6台などを、車両に埋め込んでしまっている。

筆者は3列目に座った。本来ならこの位置は、右左折のたびに大きく身体が揺れる場所だ。しかし怖いと思うことはなく、人間が運転するクルマよりも、安心しては非常に快適に移動することができ、楽しくて思わず2回乗ってしまった。

その秘密は、日産ならではのやさしさにある。車内に設けられた大きなディスプレイを用いて、この自動運転車両が何を認識し、どこへ行こうとしているのか、乗客と車両との信頼関係を構築するうえで、必要な情報のみをわかりやすいデザインで伝えてくれた。これにより乗客はしっかり身構えることができるだという。

世界的にみて非常に難易度の高い環境下での実証

地図データをもとにハンズオフで目的地へ。一般車の交通の流れに乗った速度で走行する

日産とドコモが選んだみなとみらいの実証エリア(設計運行領域ODD)は、高いビルが立ち並び、路上駐車や自転車の走行のある、世界的にみて非常に難解な環境下の実証だ。

みなとみらいの典型的な駐停車両には対しては次のように対応している。駐停車両の多い場所を事前に学習させ、これを避ける車線を予め選択。遠方から障害物を検出し、隣の車線の流れにタイミングを合わせて車速を調整し、車線変更を実行するなどの対応をとっている。

今回の運行体制は、eNV200を4台とそのドライバー席に座る4名、それに対になるかたちで管制に4名、全体を見るスーパーバイザーが1名、マシンやシステムのメンテナンスの担当者が日産とドコモから各1名の体制だ。前回と異なる点は、eNV200に同乗するADオペレーターと伴走車を排除し、自動運転をより進化された。

有人から無人へドコモの挑戦

ドコモは有人で実績を積み上げているAI運行バスをベースに、無人化を進めようとしている。

有人を無人化する際に、人がいないことを前提にしたときに、どのような運用や情報の整理をすればよいか時間をかけて考えたのだそうだ。

とくに電池の残量については、有人の場合は、ドライバーがガソリンや電池の減り具合を見ながら、予約状況を鑑みて、ガソリンスタンドや充電をしている。無人の場合は、電池の残量が少ない状況で予約が入ったらどうするかなど整理をした。その結果、AI運行バスのダッシュボード(管理画面)に、ある程度電池の容量が減ると、配車の予約が入らないロジックを入れることにした。

またバッテリーの残量以外に、無人の場合は、車両が乗客を認識する方法をどうするか課題となったのだそうだ。

車両情報をダッシュボードと連携させたシステムを構築しており、日産とドコモが密に取り組んでいることがうかがえた。

デマンド交通が自動運転の商用利用の基礎を築く

AIの活用やMaaSが注目されるとともに全国で広がっているAIデマンド交通で実績を積むドコモ。自動運転の技術で業界をリードする日産。両社のみなとみらいの実証実験を通して、デマンド交通が自動運転の商用利用の基礎を築くのだろうと改めて感じた。

横浜みなとみらい、中華街エリアに23カ所の乗降地を設け、9月21日から10月30日まで、約200名の一般モニターを募集。乗降時や乗車中の体験についての評価や周辺店舗と連動したサービスの利用状況、実用化した場合の想定利用価格などについてアンケートを実施

楠田悦子
(Kusuda Etsuko)

モビリティジャーナリスト

心豊かな暮らしと社会のための、移動手段・サービスの高度化・多様化とその環境について考える活動を行っている。 自動車新聞社モビリティビジネス専門誌『LIGARE』創刊編集長を経て、2013年に独立。「交通政策審議会交通体系分科会第15回地域公共交通部会」、「MaaS関連データ検討会」などの委員を歴任。近著に『「移動貧困社会」からの脱却 −免許返納問題で生まれる新たなモビリティ・マーケット』(時事通信社)などがある。