RoAD to the L4 自動運転レベル4等先進モビリティサービス
研究開発・社会実装プロジェクト

クリーンエネルギー施設とコミュニティ施設を拠点とした、みやま市の自動運転サービス

2021年7月19日に本格運行を開始した自動運転サービスを体験しに、福岡県みやま市を訪れた。特徴は、道の駅を拠点とせず、クリーンエネルギー施設とコミュニティ施設(ルフラン)を拠点としている点だ。自動運転の充電にもこのクリーンエネルギーが一部使われている。愛称名はオレンジスター号。

温暖な気候を活かした農業が盛んで秋は山川みかんの収穫期

みやま市は、福岡県南部に位置し、福岡空港から九州縦貫自動車道を経由して約50km。最寄り駅は西日本鉄道天神大牟田線「開駅」や JR九州鹿児島本線「瀬高駅」などだ。

筑後平野にあり、観光スポットとなっている清水山や平家一本桜の天保古山でも標高は330mや165mと低く、矢部川が流れ、南西部は有明海に面する。温暖な気候と肥沃な土壌に恵まれる福岡県の代表的な農業地帯だ。晩秋から初夏にかけては西日本一の生産量を誇るセロリ、秋には全国的に知られる山川みかんが収穫を迎える。

試乗体験に街を訪ねたのは10月末。黄色いみかんがいっぱい詰まった袋がまちのあちらこちらの無人販売所で売られていた。収穫や出荷で忙しそうに働く女性の姿も目にとまった。

コミュニティバスの車両のひとつとして

オレンジスター号は、電磁誘導線とゴルフカートを用いている。乗客定員は4名、自動運転時は時速12km。料金は1乗車につき100円(65歳以上の高齢者、障がい者、小学生は50円)、運行日は月曜から金曜。

起点の“バス停”「ルフラン」から乗り込んだ。「なぜバス停と言うのだろう?」と不思議に思った。その理由は、みやま市ではコミュニティバスを運行していて、そこに自動運転の車両を1台追加したかたちで運行しているからだ。まだまだ珍しいデジタルで表示されるスマートバス停も使っていて気になった。

運行は地元のバス、タクシー会社にお願いをしている。今日のドライバーは緒方さんだ。緒方さんは話上手で、乗車中の会話が弾む。隣まちの柳川の出身だが、自然豊かで人が温かいみやまが好きなのだそうだ。

今はちょうど山川みかんの収穫時期。秋晴れの青い空とみかんや柿で黄色く色づいた景色をのんびりと眺めながら、この地域について学べるのが楽しい。

終点のAコープ山川店の隣は、JAみなみ筑後山川選果場があり、みかんの出荷と直売所になっていた。みかんの収穫や出荷で往復する農家のトラックが往来し、まちは忙しそうだった。

「この時期は働き手である高齢者も忙しくコミュニティバスに乗って通院どころではないよ」と緒方さん。

緒方さんはスクールバスの運転が長く、やはり安心感がある。追い越し車両があると、ハンドルを握らないといけないので、難儀なのだそうだ。せめて他の交通と同じ速度で走りたいそうだ。10月末だがまだ薄着で乗ることができた。氷点下になることは少なく、夏は暑い地域。暑さ対策に運転席にはエアコンを付けたり、乗客には扇風機をつけたりしたそうだが、それでも暑かったらしい。

山川みかんはみやま市の特産品

大雨でみかん農家が被災

みやま市は高い山がなく、日照時間が比較的長いこともあり、「しあわせつくる晴れのまち」をコンセプトにまちづくりを進め、エネルギーの地産地消や移住定住などにも力を入れている。自動運転サービスに取り組むようになったきっかけは、市が太陽光発電事業に取り組んでおり、電気自動車を用いる自動運転サービスと相性がよいからだ。

そこで、みやま市の山川支所を拠点として、実証実験を進めることになった。実証実験では山手の斜面でみかんをつくる農家の協力を得て、農産物の輸送に自動運転サービスを使うスキームを検証した。しかし2020年の夏の大雨でみかん農家が被災してしまった。

そこで、クリーンエネルギーとコミュニティ施設「ルフラン」を拠点とする案が出た。

自動運転の拠点は、バイオマスセンターとコミュニティ施設に生まれ変わった旧小学校

小学校のグランドだったところにはバイオマスセンターが建つ
かつての校舎は住民が集うコミュニティ施設に
かつての教室はコワーキングスペースなどとして活用
旧山川南部小学校を改装し、日替わり店長がルフランカフェを営業

みやま市は2007年に瀬高町、高田町、山川町が合併し、面積は105.12㎢、人口は3万6378人(2021年3月末現在)、高齢化率は36.1%だ。福岡県の65歳以上の高齢化率ランキングで上位9位に(1位東峰村44.9%、57位福岡市22.0%)。少子高齢化にともない、小学校の統廃合を進めざるを得なくなった。

循環型社会の推進に力を入れている地域だけあって、廃校になった小学校の利活用が非常にユニークだ。グラウンドには、家庭用の生ごみを電力や肥料に循環させる大きなバイオマスセンターが建っている。校舎は、シェアオフィス、学習室、日替わり店長による個性豊かなお店とメニューが楽しめるチャレンジカフェとして使っている。年間を通して視察が絶えない。

取材をさせてもらったシェアオフィスは自治体の施設とは思えないようなオシャレな家具が配され居心地がよかった。今日の日替わり店長は、地元の農産物を使ったサンドイッチの「りるさんど」さんで、さつまいもや柿や梨が入ったフルーツサンド、色とりどりの野菜が入ったメンチカツや生姜焼きサンドなど、めずらしいサンドイッチが並び、ファンが絶え間なく買いに来ていた。

SIPの自動運転サービスは道の駅を拠点とするものが多い。カーボンニュートラルなど環境問題が注目されるなかで、自動運転とエネルギーやコミュニティ施設の組み合せは非常にいい組み合わせだと感じた。

みやま市を知ってもらうきっかけにも

自動運転の実施主体担当課の担当者で今回案内してくださった、みやま市総務部企画振興課地方創生係の吉田直樹さんは、移住定住促進の担当者でもある。

他の地域も同様だが、新型コロナウィスル感染拡大で、みやま市もコミュニティバスの利用者はコロナ前と比べて4割ほど減少してしまった。その一方で嬉しいこともあったようだ。自動運転をはじめたことで、テレビを含む複数のメディアがみやま市を取り上げ、視察者も多く、広告効果が非常に大きかったのだそうだ。

みやま市では、コミュニティバスに利用者が徐々に戻るようになるのを待ち、自動運転の車両にも乗ってもらいたいと考えている。

楠田悦子
(Kusuda Etsuko)

モビリティジャーナリスト

心豊かな暮らしと社会のための、移動手段・サービスの高度化・多様化とその環境について考える活動を行っている。 自動車新聞社モビリティビジネス専門誌『LIGARE』創刊編集長を経て、2013年に独立。「交通政策審議会交通体系分科会第15回地域公共交通部会」、「MaaS関連データ検討会」などの委員を歴任。近著に『「移動貧困社会」からの脱却 −免許返納問題で生まれる新たなモビリティ・マーケット』(時事通信社)などがある。