ルフランを拠点とした自動運転サービス導入は始まったばかり
福岡県みやま市で2021年7月19日に本格運行を開始した「自動運転サービス」。愛称はオレンジスター号。ここの特徴は、道の駅ではなく、このクリーンエネルギー施設とコミュニティ施設ルフランを拠点としている点だ。サービスを実施してみての感想や展望について、実施主体担当課のみやま市総務部企画振興課地方創生係の吉田直樹氏に聞いた。
楠田 道端に黄色いみかんがいっぱい入った袋が無人販売されていました。山川みかんの産地なんですね。今がちょうど収穫の時期で、ご高齢の女性も前掛けをしていきいきと仕事をされている姿が印象的です。
吉田 高い山が少なく、有明海の風にあたり、土壌がよいため、皮が薄くて甘いと言われます。私の親戚もみかんを作っていて、お裾分けしてもらいます。農家の方は、生涯現役の方も多いです。「自分はまだ大丈夫」と気概が強いことは素晴らしいのですが、運転ができなくなるまでクルマに乗られる方も多く、運転ができなくなったあとの移動手段の確保が問題となっています。
楠田 エネルギーの地産地消に他の自治体に先駆けて取り組まれていますね。
吉田 「しあわせつくる晴れのまち」をコンセプトにまちづくりを進めています。循環型社会を目指して、地産資源の地消を進めています。日本ではじめて、自治体が出資して新電力会社(みやまスマートエネルギー)を立ち上げました。
また廃校になった小学校も、クリーンエネルギー施設とコミュニティ施設として再利用しています。名称は「ルフラン(フランス語で繰り返す)」です。
小学校のグラウンドだった場所には、バイオマスセンターを建てました。家庭の生ゴミなどを電力と肥料に循環させています。小学校の校舎は、シェアオフィス、学習室、日替わり店長さんによる個性豊かなお店とメニューが楽しめるチャレンジカフェなどとして使っています。
クリーンエネルギー施設とコミュニティ施設が拠点
楠田 みやま市の自動運転サービスの特徴は、道の駅ではなく、このクリーンエネルギー施設とコミュニティ施設を拠点としている点ですね。自動運転の充電にも一部このクリーンエネルギーが使われていますね。自動運転サービスの導入について、これまでの背景や経緯を教えてください。
吉田 道の駅みやまも候補に挙がっていましたが、道の駅は郊外にあるため自動運転車が走る拠点としては不向きでした。
そこで、実証実験では、山川支所を拠点に、みかん集落と結ぶルートで実証実験を行うことになりました。みかん生産者の多い集落は急坂の山手にあるため、登坂性能の高いクルマでなければ出荷用のみかんを積んで下ろせません。そこで急坂でも登ることができる電磁誘導線を用いたゴルフカートでの自動運転実証実験を行うことになりました。
ところが、2020年夏の大雨の影響で、みかん山が被災し、自動運転サービスと連携することが難しいと集落から申し出がありました。当初より「将来的にこのようなサービスは欲しいが今すぐ欲しいかというと……」という声もありました。
このような経緯があり、電磁誘導線を敷いている山川地区内で、他のルートを検討しました。山川地区の買い物先となっている「Aコープ山川店」と、コミュニティ拠点であり資源循環の拠点となっている「ルフラン」を繋ぐことになりました。「Aコープ山川店」と「ルフラン」の間には、山川市民センターや山川げんきかんなどさまざまな施設があります。
コミュニティバスのひとつとして
楠田 ドライバーや遠隔監視など、運営スタッフはどのように確保しているのでしょうか?
吉田 もともと市ではコミュニティバスを6台運行しています。運行は地元のバス、タクシー会社にお願いをしていて、瀬高交通自動車が5台、ニコニコ光タクシーが1台運行くださっていました。そこに自動運転の車両を1台追加して運行しており、コミュニティバスの支線がひとつ増えたような感じです。自動運転の運行は瀬高交通自動車に依頼しています。遠隔監視は行っていませんが、管理システムで車両の位置は把握しています。
温暖な地域では暑さ対策が課題
楠田 新型コロナウィスルの感染者が増えたり、夏の大雨の影響などもあったり難しい時期だったかと思います。今年7月から運行されて約3カ月で見えてきた問題点などがありましたら教えてください。
吉田 新型コロナウイルスの流行で、コミュニティバスに乗る方がコロナ前と比べて4割ほど減少してしまっていて、自動運転車両のみならずコミュニティバスを利用する方が大きく減ってしまいました。急には利用者は戻ってきませんが、既存のコミュニティバス路線の補完として、自動運転の車両に住民の方にもっと利用していただけることを期待しています。
みやま市は温暖な地域で、夏は暑く、冬は数日程度しか氷点下まで落ちません。そのため雪国と違い、暑さ対策が必要となります。今年の夏も暑く、運転席の横に冷房を付けたり、乗客席には扇風機をつけたり、うちわを配ったりするなど工夫をしました。
自動運転をコミュニティバスの補完として使うには、走行スピードは他のクルマと同じくらいのスピードが必要です。将来的には運転手が必要なくなれば、様々な課題を一手に解決できると思っています。
自動運転サービスを取り入れて、位置情報や乗車記録がとれるようになったので、コミュニティバスにも応用していく予定です。また、地域住民が最先端の技術に触れる貴重な機会になっていると思っています。自動運転が導入されたことで、テレビを含む複数のメディアにみやま市を取り上げていただいており、また視察に多くの方がお見えになるなど、広告効果が非常に大きいと思っています。
楠田悦子
(Kusuda Etsuko)
モビリティジャーナリスト
心豊かな暮らしと社会のための、移動手段・サービスの高度化・多様化とその環境について考える活動を行っている。 自動車新聞社モビリティビジネス専門誌『LIGARE』創刊編集長を経て、2013年に独立。「交通政策審議会交通体系分科会第15回地域公共交通部会」、「MaaS関連データ検討会」などの委員を歴任。近著に『「移動貧困社会」からの脱却 −免許返納問題で生まれる新たなモビリティ・マーケット』(時事通信社)などがある。