RoAD to the L4 自動運転レベル4等先進モビリティサービス
研究開発・社会実装プロジェクト

自動運転サービスが定着した秋田県「かみこあに」

2019年11月30日、日本で一番初めに自動運転サービスの本格運行を開始。雪国でも走れることを証明した、秋田県上小阿仁村の道の駅「かみこあに」を訪ねた。

日本一高齢化が進む村

上小阿仁村は、秋田県のほぼ中央に位置する南北に長い山あいの村。総面積の92.7%が山林原野だ。

自動運転車は雪道を走る写真を目にすることが多い。しかし、雪のない季節は、まったく印象が異なる。11月上旬はまだ薄着でも過ごせて、寒暖差で真っ赤に染まる紅葉、食用の「ほうずき」や「きのこ」などを求める客で道の駅は賑わっていた。

村には樹齢250年ほどの秋田杉が群生しており、ブルーベリーよりアントシアンの含有量が2、3倍多い「こはぜ」や馬肉などの名産品も多い。

全国でもっとも高齢化が進み、人口は2000人ほど。しかし、80歳になっても高齢者という意識は薄く、仕事に精を出す姿が印象的だった。ゆっくり流れる時間が心地いい。

2年の運行実績から乗員への配慮も行き届く

観光客は道の駅にある受付で200円の運賃を支払う。運行スケジュールは9時から16時。旅客定員は5人、最高速度は時速12km、導入台数は1台、地元の有償ドライバーが走行中はハンドルを監視するかたちで運行している。

電磁誘導線の上をヤマハ発動機のゴルフカートが走るタイプの自動運転サービスだ。自動運転サービスの愛称は「こあにカー」で地元の子どもたちが名づけた。上小阿仁村名産のほおずきがかわいらしく描かれた白い幌がかかっていて、中には暖かな青いひざ掛けや座席ヒーターが付いていた。窮屈な感じもなく、試行錯誤ののちに作り上げられた空間は非常に居心地がいい。

足腰の悪い高齢者にやさしい

こあにカーは、診療所、公民館、生涯学習センター、村役場などを巡回する。驚いたことは、電磁誘導線は住宅地を走り、施設の正面玄関まで連れて行ってくれることだ。足腰の悪い高齢者は数メートル歩くのもつらい人が多い。そのためバスに乗れないなどが問題となっている。施設の敷地内は道路ではないので、施設管理者の理解の上に成り立つ。村長の了承により自動運転サービスに取り組みはじめたので、このようなサービスが実現したのだろう。

野生の白鳥が間近に

村内の小沢地区から堂川地区の片道約1kmの農道で、運転席にドライバーがいない自動運転レベル4で走行できる。2018年度に1年程度運行していたが、費用の問題で今はレベル2で走る。

この区間は、野生の白鳥が田畑に落ちた穀物を食べに毎年飛来する。それも数羽ではなく、何十羽も群れになっていて、それをこあにカーから見ることができる。まるで、自然動物園のようで、親のみならず、成長途中の灰色の羽の子どもの白鳥も観察できる。1時間弱のコースになっているので、立派な観光ルートになると感じた。

自家用有償運送のデマンド移送のNPOが支える

上小阿仁村の自動運転サービスの運行主体は、NPO法人上小阿仁村移送サービス協会だ。代表者は村議会議員を務める萩野芳紀氏。

タクシー会社がなくなったこの地域では、2005年頃から、病院や買い物へは、このNPO法人が先頭に立ち、住民同士の助け合いによる自家用有償運送のデマンド移送が行われている。

住民ドライバーは自分のクルマを使って送迎し、一定の金額をもうらようにしている。上小阿仁村から秋田市内や北秋田市などへ、主に通院の用途に応えている。

このデマンド移送が混雑している日など、自動運転サービスが始まったことで選択肢が増えて助かっているようだ。

自動運転サービスも、このデマンド移送にならって、実情に応じて運行している。午前に定路線を1回走らせてから、予約があった時だけ運行させて、試行でひとりでも多くの方に利用してもらうため運行ルートにない30〜40分程度の範囲内まで手動で対応するようにしている。

このように上小阿仁村は自動運転サービスをうまく使いこなしていっている。自動運転サービスを開始した地域、これから検討に入る地域などが多く、これからどうしたらいいのかと不安の多い方も多い。ぜひ一度、こあにカーに乗ってみてはどうだろうか。

秋田杉とコアニチドリの里 道の駅「かみこあに」は、国道285号沿いにあり、広い駐車スペースを完備しドライバーや地域住民の憩いの場となっています。物産センターでは地元の特産品が販売され、秋田杉をふんだんに使った食事処秋田杉の館では、地元で採れた山菜やきのこを使用した定食や名物馬肉料理、特産品のこはぜや食用ほおずきを使用したジュースやデザートまで堪能できます。
●所在地:秋田県北秋田郡上小阿仁村小沢田字向川原66-1 ●営業時間:物産センター(売店)9:00~17:30/秋田杉の館(食事処)10:00~18:00 ●定休日:年末年始(12月31日・1月1日)

http://www.michinoeki-kamikoani.jp/

楠田悦子
(Kusuda Etsuko)

モビリティジャーナリスト

心豊かな暮らしと社会のための、移動手段・サービスの高度化・多様化とその環境について考える活動を行っている。 自動車新聞社モビリティビジネス専門誌『LIGARE』創刊編集長を経て、2013年に独立。「交通政策審議会交通体系分科会第15回地域公共交通部会」、「MaaS関連データ検討会」などの委員を歴任。近著に『「移動貧困社会」からの脱却 −免許返納問題で生まれる新たなモビリティ・マーケット』(時事通信社)などがある。