RoAD to the L4 自動運転レベル4等先進モビリティサービス
研究開発・社会実装プロジェクト

2019年に全国初の自動運転サービスを導入した「かみこあに」のいま

日本で一番はじめに自動運転サービスを2019年11月30日に開始した、秋田県上小阿仁村(かみこあにむら)。運営主体であるNPO法人上小阿仁村移送サービス協会代表 萩野芳紀氏、自動運転サービスのドライバーを務める石上久美子氏に聞いた。

上小阿仁村移送サービス協会代表 萩野芳紀氏
ドライバーとして活躍する石上久美子氏

日本一高齢の村の挑戦

萩野 上小阿仁村の人口は2000人ほどです。秋田県は高齢化が全国一進んでいて、さらにこの地域は秋田県の中でももっとも高齢化率が高いです。統計上では上小阿仁村は、日本で一番高齢化が進んでいる村だと言えます。

この道の駅の周辺が平野になっていて、ここに村民が住んでいますが、それ以外の約97%は森林です。村には国道が走っていて、単線で追い抜けない自動車専用道を走るよりも、こちらの国道を走るほうが速いので、この国道が多く使われています。木材を運ぶトラックなども多いです。

石上 この地域の方は80歳になっても高齢者という意識が皆さんありませんね。畑で野菜をつくったり、みなさんお元気なんですよ。

萩野 かつてのように親子三世代で住むことが減り、若い世代は実家から近くの村営住宅などに住むようになりました。そのため空き家が増えています。高齢者の単身世帯も増えていて、とくに男性よりも自炊ができ生活力のある女性の独居が増えています。定期的に民生員が様子を見に行っています。

楠田 村にはスーパーや病院はありますか?

萩野 村にはスーパーがありません。コンビニがひとつだけあります。移動販売車が巡回するようになっていて、この道の駅からも出ています。クルマが運転できる方は、10〜15分走らせると隣町にスーパーがあるのでそこに買い物に行っています。

以前からあった住民ドライバーによる有償デマンド交通

楠田 自動運転をはじめたきっかけは?

萩野 4年前に村長が内閣府のSIPの自動運転の事業を了承したことがきっかけです。雪の降る地域で検討したいという構想があったようです。

私は村議員をしていますが、NPO法人の代表もしています。昔はタクシー会社があったのですが撤退してしまい、足腰が痛くてバス停までいけないなどの高齢者に対して、2005年頃から住民ドライバーを集めて自家用有償運送の枠組みでデマンドの輸送サービスを行っています。その関係で、自動運転サービスの運行に協力してほしいと依頼がありました。

楠田 NPO法人ではどのような移送サービスを以前から実施されているのですか

萩野 バスより高くタクシーよりも安い移動サービスとして提供しています。利用される方のほとんどが通院で、買い物のみという依頼は非常に少なく、病院に行ったついでに買い物に行くような感じです。上小阿仁村から秋田市内に行く場合は距離にして約60kmで、片道4000円、往復5000円になります。北秋田市の場合は、往復2400円です。

ドライバーには定年退職した人など、クルマを所有していて時間に余裕のある人を集めました。現在、ドライバーは10人程度登録していて、5〜6人が活動しています。一時期は年間の延べ利用者数が1000人にのぼった時もりましたが、村民の減少で利用者が少し減りました。

楠田 デマンドサービスと自動運転サービスの使い分けは?

萩野 デマンドサービスでは、利用者が集中するとドライバーが足りず、お断りをする場合があります。自動運転サービスができて選択肢が増えました。

石上 自動運転サービスは、自宅前の道路や各施設のドアの入り口まで電磁誘導線が敷かれているので、高齢者にはやさしいサービスです。

地域の実情に応じて柔軟に対応

楠田 運行のスケジュールなどを実状に合わせて変えているようですね。

萩野 サービス開始当初は、定時定路線で運行していました。そこから運行ルートを伸ばしました。今は、午前は定路線を1回走らせ、あとは予約があった時だけ運行して、試行で多くの方に利用してもらうため自動運転の運行ルートにない30〜40分程度の範囲内まで手動で対応しています。

楠田 自動運転レベル4の実証実験もされていたようですね

萩野 小沢地区から堂川地区の片道約1kmの農道で、運転席にドライバーがいない自動運転レベル4で走行できます。日本でも前例のない取り組みで、警察など国のほうが事故が起きないようにと、非常に気を配ってくださいます。国道285号からレベル4区間の農道に一般車両の進入がないように、警備員を立てたりします。2018年度に1年程度運行していましたが、費用の問題で今は要請があった時だけ警備員を呼んでレベル4で走ります。

地域に馴染んだ自動運転サービス

楠田 村民の方は使われていますか?

石上 はい。70〜80代の常時20人くらいの方が利用されています。道の駅には野菜などが売っていますのでお買い物に出かけたり、農協のATMへお金を引き出しに行ったり、習いごとや子どもの送迎に利用されています。運賃は片道200円ですが、安いので値上げしてもいいのではないかと言われてます。

萩野 上小阿仁村の時間はゆっくり流れている感じです。この「こあにカー」のスピードは、この地域の時間の流れにあっているのだと思います。

やりがいを感じる女性ドライバー

楠田 石上さんは「こあにカー」のドライバーをされていますがいかがですか? 女性のドライバーは珍しいですね。

石上 以前は介護関係の仕事をしていたのですが、母の介護のために休職しました。お客さんに「楽しかった。ありがとう」と言われるのが嬉しい。お友達感覚で、お料理の話などをしたりします。役に立てているのかなと思うと、やりがいを感じます。私ができたのですから、どなたでもできると思います。

楠田 雪がかなり積もる地域ですが、暖房の無いゴルフカートは寒くないですか

石上 みなさん厚着をして出てきてくださいます。また、車両に幌をつけたり、座席に電気毛布を敷いたり、ひざ掛けを用意しているので意外と暖かいですよ。

萩野 ここの地域は都市部より除雪がしっかりしていて、みなさんが思っているよりも走行が困難になることはありませんね。

楠田 最近気づいたことは何でしょうか?

萩野 ゴルフカートを整備する事業者が秋田にはないのです。岩手県の久慈まで輸送して直してもらって車検を受けないといけなかったことが大変でした。

楠田悦子
(Kusuda Etsuko)

モビリティジャーナリスト

心豊かな暮らしと社会のための、移動手段・サービスの高度化・多様化とその環境について考える活動を行っている。 自動車新聞社モビリティビジネス専門誌『LIGARE』創刊編集長を経て、2013年に独立。「交通政策審議会交通体系分科会第15回地域公共交通部会」、「MaaS関連データ検討会」などの委員を歴任。近著に『「移動貧困社会」からの脱却 −免許返納問題で生まれる新たなモビリティ・マーケット』(時事通信社)などがある。