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研究開発・社会実装プロジェクト

高畠町の中心地区で自動運転サービスの実証実験

まちの中心地区にある公立病院を拠点とした自動運転サービスの実証実験が高畠町(たかはたまち)で、2021年10月11日から11月12日まで行われた。それに合わせて試乗と関係者取材を実施した。

高畠町は、山形県の南東にある人口約2万3000人のまち。種なしぶどうデラウェア出荷量日本一で、11月上旬はラフランスの収穫を迎えていた。山々に囲まれ実り豊かなまほろばの里として知られている。

後ろに見えるのが公立高畠病院

全国でも珍しい病院を拠点に

2021年度も全国で様々な自動運転サービスが展開されている。道の駅、コミュニティ施設などが多い。高畠町は病院とスーパーに着目したサービスの実証実験で、他にないユニークな取り組みだ。高齢者の足の確保が生活交通として最重要課題で、行き先として必ずあがるのが、病院とスーパーだからだ。

拠点となる公立高畠病院の周辺には、調剤薬局、町役場、スーパー、ドラッグストア、日用品店がある。クルマを運転できれば、必要なものを調達するには非常に便利な場所だ。しかし、裏返せばクルマ移動に適したまちで、病院から調剤薬局やスーパーまで、高齢者が歩くには、距離があり、交通量があるので、大変だと感じた。

そのため、診察を受けた高齢者は処方箋を持って、わざわざタクシーで調剤薬局へ行く人もいるのだという。さらには、途中何度か休憩しながら歩く人も。そこで、この問題を解決したいと自動運転サービスを走らせてみることになったそうだ。

3つのスーパーをめぐるルート

公立高畠病院の玄関先で、ゴルフカートタイプの自動運転車に乗り込む。運賃は1回200円。約1カ月間の実証実験であるため、たくさんの関係者が詰めていた。

一般車両や歩行者が行き交うなか、進むと交通量の多い県道に出る。少しスピードの速い幅の広い道路で、手動で運転しながら、気をつけながら横断した。

病院利用者がよく使うというスーパー「ヤマザワ」の駐車場を通ってスーパーの入り口へ。続いて、病院で診察を終えた患者が、処方箋を持って薬をもらう調剤薬局「ほし薬局」へ。その後、ツルハドラッグ、スーパーのヨークベニマル、町立図書館、高畠町役場、スーパーキムラを通って高畠病院の駐車場へ戻ってくる。

病院に行ったついでに、買い物をして帰る高齢者にはうってつけのルートだ。

診療を終えて調剤薬局やスーパーをルート上に設定。高齢者には好評だったようです

デマンドタクシーとの連携

高畠町では、町内ならどこでも500円のドア・ツー・ドアのデマンドタクシーが2005年から走っている。路線バスが撤退してしまったからだ。町内にタクシー会社が3社あり各社が1台ずつ出している。運営はこの3社による企業体が担っている。

そして、自動運転サービスもこのデマンドタクシーと連携。デマンドタクシー利用者は無料で自動運転サービスを利用できるようにした。また自動運転サービスのドライバーの部分をタクシーの企業体が担っている。

ゴルフカートの自動運転サービスは、自動運転の場合が時速12km以下、手動運転の場合は時速20km未満で拠点の周辺を運行し、長距離は難しい。そのため、デマンドタクシーや路線バスなどで拠点まで行き、小回りが必要な近距離のエリアをゴルフカートタイプの自動運転サービスで周遊するのに合うと考えたようだ。

デマンドタクシーとの連携も検証されました

磁気マーカの3つの強み

高畠町では、全国で初めて磁気マーカを用いたカートタイプ車両による公道での技術検証が行われた。

現在、ゴルフカートタイプの自動運転では電磁誘導線が使用されていることが多い。しかし電磁誘導線では、断線のリスク、ルート設定での制限、メンテナンスのランニングコストなどの問題がある。

磁気マーカーでは部分的な不具合で済み、路面の障害物の影響が出にくく、ほぼメンテナンスフリーになるのだというのだ。

磁気マーカーは等間隔に設置されていて、電磁誘導線のようにスムーズな運行が難しいのではないかと心配されていたようだ。しかし、磁気マーカでの運行だと聞くまでまったく気づかないほど、運行に支障がないと感じた。

手動運転をする理由

県道を走る際に、これまでの交通とは違う速度と動きをする自動運転車両に、クルマのドライバーは追い越せばよいのか、後ろについて走ればいいのか、迷うのだそうだ。自動運転車両はどのようなものなのか、ドライバーも慣れる必要がある。もしこの地域で長期にわたり自動運転サービスを展開する場合は、自動運転が通るルートに自転車道のように色を塗ったほうがよいのかもしれないとの話も出ていた。

高畠町でもドライバーが運転する手動運転のシーンが多々あった。これは他の地域でも同様だ。以前は手動運転をせずに、すべてを自動運転で走らせることが重要視されていた。しかし、技術実証からサービス開始へとフェーズが移った。生活交通に自動運転を取り入れて、すべてを自動運転で走らせようとすると、サービス提供は何年も先になってしまう。そのため手動と自動を織り交ぜながら、自動運転を少しずつ増やしていくアプローチにならざるを得ないそうだ。

楠田悦子
(Kusuda Etsuko)

モビリティジャーナリスト

心豊かな暮らしと社会のための、移動手段・サービスの高度化・多様化とその環境について考える活動を行っている。 自動車新聞社モビリティビジネス専門誌『LIGARE』創刊編集長を経て、2013年に独立。「交通政策審議会交通体系分科会第15回地域公共交通部会」、「MaaS関連データ検討会」などの委員を歴任。近著に『「移動貧困社会」からの脱却 −免許返納問題で生まれる新たなモビリティ・マーケット』(時事通信社)などがある。