RoAD to the L4 自動運転レベル4等先進モビリティサービス
研究開発・社会実装プロジェクト

高畠町の“初の取り組み”を盛り込んだ実証実験

山形県高畠町は、2021年10月11日から11月12日の期間に、全国で初となる磁気マーカを用いたカートタイプの自動運転サービスを既存のデマンド交通と組み合わせた実証実験を行った。運行ルートは病院を拠点に薬局、高畠町役場、スーパー、ドラッグストアなどをめぐり、1回200円、デマンド交通と合わせて利用する住民は無料とした。

山形県高畠町役場商工観光課課長深瀬吉弘氏、課長補佐兼ブランド戦略室長の安達敏幸氏、パシフィックコンサルタンツ佐久間良氏に詳しく聞いた。

山形県高畠町役場商工観光課課長深瀬吉弘氏(左)、課長補佐兼ブランド戦略室長の安達敏幸氏(右)

楠田 高畠町はどのような地域ですか?

深瀬 高畠町は人口2万3000人です。現町長は4期目に入り、人が輝くまちを目指しています。

山々に囲まれ実り豊かなまほろばの里として知られ、種なしぶどうのデラウェアの出荷量は日本一。ラ・フランス、まつたけ、質の高いブランド米「つや姫」でも有名です。

実証実験の拠点となっている公立の高畠病院は、1998年後半に、医師不足や経営難に陥り、町長が公約として掲げて山形大学と連携するなどして黒字化させました。高畠病院が立地する場所は、田んぼでしたが、役場、図書館、文化ホールなど、町の施設が集約していています。

しかし、民間の路線バスはなくなってしまいました。中学校は4校が1校に統廃合し、遠方の生徒をスクールバスで送迎しています。

高畠町はこの中心部からまちの端まで片道クルマで20分ほどかかり、クルマがないと生活ができない地域です。そこで2005年12月にデマンドタクシーをはじめました。町内にはタクシー会社が3社あり、ジャンボを1台ずつ合計3台走らせていています。どこから乗っても運賃は500円です。クルマの運転免許証の自主返納者は2割引きで利用できます。運行はそのタクシー会社3社に共同企業体を作っていただいています。今回の自動運転サービスはそのタクシー会社の企業体と協力していただいています。

楠田 自動運転サービスの実証実験をするようになった背景は?

深瀬 2017年頃に、県のほうから、県としても自動運転サービスの活用を進めていきたい。どこかの市町村で協力してもらえないかと相談がありました。JR高畠駅は、かつて糠野目駅でした。山形交通の高畠鉄道があったのです。それが1973年(昭和48年)に廃線となり、町営のバスが走っていましたが、それも使われなくなり、鉄道の廃線跡をサイクリングロードとして活用するようになりました。そのサイクリングロードを自動運転サービスが通る道路として活用を検討してみないかとのお話がありました。

2017年に短期の実証実験をはじめて実施しました。その自動運転サービスの実証実験では、道の駅「たかはた」を拠点とし、アイサンテクノロジーが改造したエスティマを使いました。JR高畠駅から北側の約700mを自動運転レベル4で走行させる実証も行いました。

楠田 病院を起点とした今回の自動運転サービスの実証実験は他地域にはない取り組みだと思いますが。

深瀬 道の駅「たかはた」は高齢者の生活の拠点から離れていました。今回、病院を拠点とした自動運転サービスの提案をいただき、どのような結果が出るか実証実験を実施することになりました。雪の降る季節では、自動運転車両の走行に問題が出ないか、この点についても知りたいなと思っています。

高齢者のなかには、デマンド交通で高畠病院に来て、診察を受けて、調剤薬局まで薬を取りに行く人がいます。調剤薬局は病院から県道を挟んだ先にあり、少し距離があります。元気な大人でしたら歩ける距離なのですが、高齢者には遠いようです。デマンドタクシーに乗る人もいますし、無理して歩く人もいます。この隙間を埋めるモビリティサービスとして、自動運転サービスが適しているのではないかと考えました。

他事例にないスーパーとの連携

楠田 この高畠病院の周辺には、スーパー、ドラッグストア、日用品店などがあり便利なところですね。スーパーは自動運転に対して協力的なのでしょうか?

深瀬 一般的には、クルマなどでお越しのお客様と自動運転との事故が起きないか心配で反対されるスーパーもあると聞いています。今回停留所を設置させていただいた店舗では、病院の帰りに買い物をされる方が多いことを認識していただいており、お客様の利便性が向上するならと本部に掛け合ってくださるなど、積極的に協力をしてくださいました。

夏は暑く、冬は雪が積もる

楠田 他の活用方法や車両の課題があれば教えてください

安達 高畠の地域ですと、今回のようにデマンド交通で拠点まで来て、拠点から施設をめぐるような使い方がひとつあるかと思います。その他、高畠ワイナリーの施設内をめぐる際にも活用できるのではないかと思います。

また、当地は、夏は気温が36℃くらいまで上がり暑く、冬は積雪があり除雪が必要となる寒い地域です。これを両立できる車両があると助かります。また、観光用として使用するなら、もう少し乗車人数が多いほうがいいですね。

全国初の磁気マーカの技術検証

ルート上に設置されたRFIDタグを通過するたびに、コースデータを受信。コース情報を把握して、走行する際の距離のズレを補正
磁気マーカの微弱な磁力をセンサが読み取り、自車位置を把握しながらルート上を走行。電磁誘導線に対してコスト削減が期待されます

楠田 高畠では全国初の磁気マーカの実証実験が行われていると伺いました。どのような実証実験なのでしょうか。電磁誘導線の試乗をたくさんしましたが、高畠で試乗した磁気マーカはよくできていて、電磁誘導線との違いがわかりませんでした

佐久間 気仙沼BRTの閉鎖されたバス専用道路内を磁気マーカで走行させた事例があります。閉鎖されていない一般車両や歩行者が混在する空間でカートタイプ車両を用いた実証実験は全国で初めてです。

電磁誘導線では、断線のリスク、ルート設定での制限、メンテナンスのランニングコストなどの問題があります。電気を流して走らせているので、不具合が生じた場合、すべてのシステムが止まってしまう危険性がありますが、磁気マーカでは部分的な不具合で済みます。電磁誘導線の場合、コンクリートやグレーチング部分を避けてルートを引く必要があるのですが、磁気マーカでは等間隔にルートを引くことができるので、路面の障害物の影響が出にくいです。また電磁誘導線ではメンテナンスの際も舗装を剥がして行う必要があり費用がかかりますが、磁気マーカではほぼメンテナンスフリーになります。

実証実験前は、車両がスムーズに走るか不安でした。制御して、飛んで、制御して、飛んでを繰り返すからです。今回の実証実験で、ブレることなく、スムーズに走れることがわかりました。ヤマハ発動機さんの協力あってのことだと思います。

楠田悦子
(Kusuda Etsuko)

モビリティジャーナリスト

心豊かな暮らしと社会のための、移動手段・サービスの高度化・多様化とその環境について考える活動を行っている。 自動車新聞社モビリティビジネス専門誌『LIGARE』創刊編集長を経て、2013年に独立。「交通政策審議会交通体系分科会第15回地域公共交通部会」、「MaaS関連データ検討会」などの委員を歴任。近著に『「移動貧困社会」からの脱却 −免許返納問題で生まれる新たなモビリティ・マーケット』(時事通信社)などがある。