RoAD to the L4 自動運転レベル4等先進モビリティサービス
研究開発・社会実装プロジェクト

春日井市高蔵寺ニュータウンの課題解決に、気軽に乗れる自動運転サービスを

愛知県春日井市の高蔵寺ニュータウン石尾台地区で、2022年2月から3月にかけて実施された貨客混載型の実証実験「ゆっくり自動運転」に試乗した。

日本の代表的なニュータウン

春日井市によると高蔵寺ニュータウンは、都市再生機構(UR都市機構)が最初にてがけた代表的なニュータウンで、春日井市が住宅都市として飛躍的に発展する契機となった。事業地の85%は山林・原野で、幹線道路は谷筋や尾根筋に相当する。市内には公園やキャンプ場まであり自然にあれていて景観が美しい。その一方で、急な坂道が多く、路線バスがたくさん走っているもののクルマは欠かせない。入居が始まったのは1968年(昭和43年)で、まち開きから50年以上が経過し、高齢者が増えていて、バス停までの移動や、近場のスーパーへ買い物に行ったりするのも大変になっている。

春日井市まちづくり推進部都市政策課の津田哲宏氏によると、未来を創造する高蔵寺リ・ニュータウン計画を立て活性化を検討していて、市から名古屋大学に移動問題の解決を一緒に検討してもらいたいと依頼したのだという。

春日井市まちづくり推進部都市政策課の津田哲宏氏に人々の移動に対する取り組みについてお話を伺った(画像提供:KDDI総合研究所)

”自転車のように”気軽に使える自動運転サービスに

名古屋大学は内閣府のCenter of Innovation(COI)プログラムの一環で、高齢者が元気になるモビリティ社会のための人がつながる“移動”イノベーション拠点を目指して、産学官連携で進めている。MaaSのような独自の「モビリティブレンド」のコンセプトを掲げていて、「相乗りタクシー」「ボランティア輸送」「ゆっくり自動運転」などを用いてさまざまな選択肢のなかから個人の好みに合わせて選べるモビリティサービスの提供を、中山間地域、ニュータウン、地方都市などをフィールドに研究している。

今回の高蔵寺ニュータウン石尾台地区は「ゆっくり自動運転」の実証実験で、ゆっくり自動運転グループのサービス構築ユニットリーダーの名古屋大学の金森亮氏は「ゆっくり自動運転システムで走る『ゆっくりカート』を用いて、”自転車のように”気軽に乗って近所を移動できるようにしたいと」と抱負を語る。

約130カ所で乗降ができる

加齢に伴い近所での用を足すのがおっくうで、外出を控える石尾台地区の高齢者には、速くカートを走らせることはあまり求められていないようだ。“ゆっくりカート”のバス停は、なんと約130カ所! 架空の乗り場が住宅街に張り巡らされていて、アプリで予約したり、自宅まで迎えに来てくれたり、途中で手を上げれば乗せてくれる。

ゆっくり自動運転の“ゆっくりカート”は、ヤマハ発動機の電動カートを用いており、3次元点群地図をもとにカメラやLiDARからの情報を得て自己位置を推定しながらハンズオフで走行していた。この技術面においては、名古屋大学の赤木康弘氏がリーダーを務める。短期間の実証実験であるため、名古屋大学の関係者がドライバー席に座っていたが、今後は地域住民にドライバーを担ってもらいたいと計画している。

KDDI総合研究所が、複数予約の運行経路設定や相乗り調整を自動で行う運行管理システムを貨客混載型に改良

KDDI総合研究所が貨客混載にチャレンジ

KDDI総合研究所はKDDI がMaaS事業に貢献できるように、アプリで商品を選んで配達を依頼すると、“ゆっくりカート”を使って届けてもらえる貨客混載サービスにチャレンジしていた。石尾台地区は徒歩以外に何かしらの移動手段がほしいと感じられる地域。急こう配の坂が多く、自転車での移動も高齢者には難しそうであるため、自宅まで商品を届けてもらえるサービスは非常に有難いと感じた。

ドライバーの介入が少なく滑らか

石尾台地区にあるスーパーマーケットで買い物を終えたら、自宅前まで送ってもらえて利便性は高い
「ゆっくりカート」のモニターを務めた方に使用した感想を伺った

“ゆっくりカート”の試乗は、住民の活動拠点にもなっている緑ヶ丘老人憩いの家をスタートして、住宅街を通り、生鮮食品が揃い郵便局が隣接するスーパーマーケット「ナフコ不二屋石尾台店」を経由して戻った。ナフコでは、ドライバー(車両オペレーター)が店員から、貨客混載サービスアプリで依頼した、お茶のペットボトル2本を受け取り、カートに積み込んでいた。

石尾台地区は道路の整備、手入れも行き届いており、地域の住民はクルマの速度を落として気をつけながら住宅街を走っていた。路上駐車のクルマなどを避ける際にアシストする必要があるが、そのほかはハンズオフで走行できていて、気持ちよく試乗することができた。

モニターを務めた地域住民の女性は「はじめは怖いと感じたけれども慣れてきた。便利だと感じたので、足腰が弱く外出しづらくなっているご近所さんに勧めた」と話していた。 “ゆっくりカート”の仕組みは、地域の課題やニーズを捉え、技術面での相性もよさそうで、クルマが少なく集落になっているニュータウンや中山間地域での展開が可能ではないかと感じる。実証フィールドでサービスの作り込みができれば、全国へ広がるのではないだろうか。これからの展開が楽しみだ。

フロントにLiDARを2基
リヤにもLiDARを2基装備
データ機器や専用バッテリーを搭載
ボタン操作で自動運転、障害物回避、緊急停止ができる
名古屋大学が開発した自動運転車両は、電磁誘導線がなくても自律走行を可能にしている

楠田悦子
(Kusuda Etsuko)

モビリティジャーナリスト

心豊かな暮らしと社会のための、移動手段・サービスの高度化・多様化とその環境について考える活動を行っている。 自動車新聞社モビリティビジネス専門誌『LIGARE』創刊編集長を経て、2013年に独立。「交通政策審議会交通体系分科会第15回地域公共交通部会」、「MaaS関連データ検討会」などの委員を歴任。近著に『「移動貧困社会」からの脱却 −免許返納問題で生まれる新たなモビリティ・マーケット』(時事通信社)などがある。