RoAD to the L4 自動運転レベル4等先進モビリティサービス
研究開発・社会実装プロジェクト

やり続ける者の責任 福井県永平寺町の自動運転ZenDrive

福井県永平寺町は、自動運転サービスのトップランナーとしても全国的に注目されている。自動運転のサービス名は「ZEN drive(ゼンドライブ)」で、 自動運転車の通る道路は「永平寺町( まい )ろーど」と呼ばれ、 遠隔で複数台を運行する(自動運転レベル3)の実証実験が行われている。どのような思いで取り組んでいるのか永平寺町総合政策課 山村徹氏に話を聞いた。

自動運転技術とサービス実証のショーケース

楠田 永平寺町はどのような思いで自動運転に取り組まれているのですか?

山村 ラストマイル自動運転の公募が経済産業省と国土交通省からありました。永平寺町が手を挙げ、過疎地モデルとして2017年度から実証実験を行っています。ラストマイル自動運転の過疎地モデルといっても、永平寺町には鉄道やバスもあるので恵まれた地域だと思っています。

自動運転車が走行している道路「永平寺参ろーど」は特殊な空間で、公道でありながらも、歩行者と自転車、それに自動運転車両のみが走行可能な自動運転の専用空間に近いものになっています。また過疎地モデルですが、大本山永平寺があり観光客と住民が自動運転を利用できる環境にあります。

環境が整った永平寺町で技術実証に取り組んでいかないと他の地域では成立しないでしょう。町長も永平寺モデルを作りたいと思っています。今は、自動運転事業は赤字ですが、技術を育てることをどこかがやらないといけない。技術があっても実装されない。やり続けている者の責任だと感じています。

技術実証からサービスの確立へ

楠田 今後必要になってくることは何でしょうか?

山村 2025年度に国は自動運転レベル4を40地域で実現したいと考えています。自治体が運行を担っていくには、自治体は税金を使うために住民に説明をしないといけません。コミュニティバスやデマンド交通のほうが自動運転よりいいと言われないように。したがって、国には技術実証と併せて、サービスモデル確立のための実証も必要だとお願いしています。

永平寺町は自動運転に対してなんとか説明ができています。自動運転についてはトップランナーで、新しい取り組みに対して、メディアは取り上げてくれますし、視察に人が来てくれます。日本の約1700の基礎自治体の中で埋もれないように努力していく必要性を感じているからです。

また、有難いことに、住民もこの自動運転の取り組み対してポジティブで「結果が出るまでやりなさい」とおっしゃってくださいます。

荒谷〜志比間では、すでにレベル4の実証実験が始まっている

デマンドタクシーと自動運転の関係

山村 永平寺町にもデマンドタクシーが導入される予定です。自動運転は停留所から停留所までしか行けず、目的地に行くには乗り換えないといけないのです。やはりドアツードアで移動できるデマンドタクシーへのニーズが高まっています。地域で組織を作って運行していきたいという活動が行われています。

デマンドタクシーを走らせれば、「自動運転サービスは不要では」という意見が出るかもしれません。しかし、住民との意見交換のなかでは「自動運転は引き続きちゃんとやりなさい。ここまで長くやってきたのだから、デマンドタクシーを入れたから自動運転の実証実験はやめるということがないように」と釘を刺されました。

大本山永平寺まで京福電気鉄道永平寺線が走っていた頃は、年間150万人の観光客で賑わっていました。今は年間50万人を切っています。住民は、自動運転でいろいろな人が来たり、テレビや新聞で取り上げられたりすることが励みになっているのだと思います。昔の賑わいを取り戻すひとつのきっかけになればと期待していただいているのかもしれません。

しかし、まだ移動交通のニーズを満たしているわけではありません。国も私たちも実用化に向けた方向性を考えないといけません。

自動運転レベル3や4だからできる「移動空間サービス」を検討したい

楠田 自動運転レベル4や3で自動運転はどう変わるのでしょう?

山村 自動運転はすぐに移動交通サービスとして成立しません。

自動運転レベル4や3だからできるサービスがあると思っています。このレベルになってくると自動車ではなくなり、移動交通サービスでもなくなります。睡眠、娯楽、安らぎなどの移動空間サービスになるのではないかと感じています。今後はこのような新しい価値創造にチャレンジしていきたいと思っています。

伸びつつあるデマンドタクシー「近助タクシー」

楠田 デマンドタクシー「近助タクシー」はどのようなサービスですか。

山村 自動運転の実証実験をきっかけに、トヨタ自動車さんとつながり始めました。

実用化が始まり、1地区 (人口約1200人)で1台で走らせておりますが、利用者が伸びています。コミュニティバスは1日5.8人でしたが、デマンドタクシーは1日20人が乗っています。

この地区以外にも試走していますが、電話一本で自宅まで来てくれるため、非常に便利だという声があがっています。

楠田 デマンドタクシーの課題は何ですか

山村 デマンドタクシーは100%安全ではないサービスだと思っています。なぜなら自家用有償旅客運送で、ドライバーは地元住民、管理はまちづくり会社が行っており、誰も人を送迎することに関するプロではありません。タクシーやバスは安全対策や運行管理をしっかり行っている事業者が事業を行える許認可制で、安全対策を徹底的に追求しています。自家用旅客運送は登録で安全を担保してくれません。

利便性と安全性はトレードオフの関係にあります。自動運転の安全性とデマンドの利便性がくっついていてほしいと思っています。

デマンドタクシーの事例は全国にあります。うまくいっている地域と、うまくいっていない地域があり、うまくいってない地域は交通事業者に丸投げしています。永平寺町は、デマンドタクシーは地域主導で取り組むものだと整理しています。やる気がある地域に対して支援をする、組織を作ってもらいデマンドタクシーは地域活性化のツールとして合意形成をしてもらっています。

2020年10月1日より運行を開始した「近助タクシー」。福岡県トヨタ販売店の協力を得ている

安全なクルマを使う大切さ

楠田 永平寺町ではどうして住民の自家用車を使わずにトヨタ車を使うのですか?

山村 近助タクシーで使っているトヨタのクルマはデマンドタクシーのために作られた車両で、使いやすいからです。利用者が増えているため1日十数回出動しないといけなくなっています。高齢者が乗り降りしやすいように、座席やステップなどが工夫されていて、ドライバーの手間が省けます。

デマンドタクシーに使用するクルマは持ち込みでも構わないのですが、安全技術がついた車両で安全を担保したいと思っています。もし自家用旅客運送の事故が全国で数カ所起きてしまうと、この制度はなくなってしまうでしょう。地方ではこのようなデマンドタクシーしか残らないかもしれません。オーダーメイドで使いやすく、規制でがんじがらめになれば使いにくくなってしまいます。イニシャルコストはかかるけれども安全なものを入れて担保したいと思っています。そうしなければドライバーのなり手もいなくなってしまうのではないかと思っています。

楠田悦子
(Kusuda Etsuko)

モビリティジャーナリスト

心豊かな暮らしと社会のための、移動手段・サービスの高度化・多様化とその環境について考える活動を行っている。 自動車新聞社モビリティビジネス専門誌『LIGARE』創刊編集長を経て、2013年に独立。「交通政策審議会交通体系分科会第15回地域公共交通部会」、「MaaS関連データ検討会」などの委員を歴任。近著に『「移動貧困社会」からの脱却 −免許返納問題で生まれる新たなモビリティ・マーケット』(時事通信社)などがある。