RoAD to the L4 自動運転レベル4等先進モビリティサービス
研究開発・社会実装プロジェクト

「ヘルスケアMaaSの未来」湘南アイパークでの実証実験

2021年12月4日から26日にかけて、湘南アイパークで約1000人の地域住民向けに、自動運転の実証実験が行われた。自宅から病院への移動を想定して、車室内で問診に応えながら、湘南アイパークを1周するという内容で、患者の移動時間の有効活用や病院の生産性の向上を検証するためだ。

今回の実証実験は私有地内を走る自動運転サービスで、真新しいと感じるものは少ないが、注目すべきなのは、自動運転サービスのレベルが高いかどうかではなく、次の3点。ひとつ目は組織体制で、ふたつ目はグリーンフィールドを見据えた動きであること、3つ目はそのビジョンだ。

ヘルスケアイノベーション最先端拠点に向けて

実証実験の体制は、湘南鎌倉総合病院、三菱商事、三菱電機、マクニカが、神奈川県産業労働局の支援と藤沢市、鎌倉市の後援を得て行っている。

JR藤沢駅とJR大船駅のちょうど真ん中に新駅ができ、それに伴い藤沢市村岡地区・鎌倉市深沢地区が新しく開発される模様だ。湘南鎌倉総合病院、湘南アイパークは新設される駅のすぐそばに立地していて村岡地区にある。

湘南鎌倉総合病院は、IT、IoT、ロボットなどの導入を率先的に行い「医療×産業」の実現を目指している。また、湘南ヘルスイノベーションパーク(湘南アイパーク)は、2018年に武田薬品工業が湘南研究所を公開し、幅広い業種や産官学が集結してヘルスイノベーションを加速させる場としてつくったサイエンスパークだ。

このような背景から藤沢市村岡地区・鎌倉市深沢地区ヘルスケアイノベーション最先端拠点にしようと、神奈川県、藤沢市、鎌倉市、湘南ヘルスイノベーションパーク、湘南鎌倉総合病院の5者は、「次世代健康管理」「ヘルスケア MaaS」「スポーツ振興」の3つの研究分野を掲げて、その研究成果を地域住民の心身の健康増進とヘルスケア分野の産業創出につなげようと取組んでいる。

国内外のグリーンフィールド用の新サービス開発を視野に

三菱商事は今回の自動運転サービスの実証実験の中心的な存在だ。同社の複合都市開発部グループは、インドネシアやベトナムなどのASEANや国内の大規模なグリーンフィールドにおいて、3つのレイヤーに分けて事業を展開している。ひとつ目はベースとなる生活インフラや交通インフラなどの都市基盤整備、ふたつ目が商業施設・オフィス・住宅・ホテル・病院などの都市設備整備、3つ目がエネルギー・モビリティ・コンシューマー事業といった生活・社会サービスの整備と運営で。これらを通して、不動産価値の持続的な成長を追究しようとしている。

藤沢市村岡地区・鎌倉市深沢地区は三菱グループにとってグリーンフィールドであり、今回の実証実験を通して、都市運営レイヤーの新サービスを開発する狙いのようだ。

ヘルスケア MaaSの未来

この湘南アイパークでの実証実験の特徴は、他の自動運転の実証実験と異なり、ヘルスケア MaaS(移動×MaaS)のビジョンを描いて新しいモビリティサービスの開発を進めている点にある。今回の実証実験を行った4社は次のようなビジョンを描いている。

自宅から病院までの通院や、混雑する中での多数の診療科への受診への待ち時間などは、本人のみならず付き添う家族にとっても大きな負担だ。

病院が迎えに来てくれたらどんなに楽だろうか。

自宅から病院までと病院から自宅までの送迎を行ってくれるのはもちろんのこと、自動運転車の中が待合室になっていて受診受付、検温、血圧などの計測や問診票の記入ができたり、清算手続きや薬の手配ができたりしたら、ぐっと患者や病院の負担が下がることでしょう。

また、ウェアラブルデバイスなどで見守ってくれて、異常を検知したら駆けつけてくれれば、安心して住み慣れた地域で暮すことができるのではないだろか。

新しいモビリティサービスの一番の課題は収支のバランスが悪いことだ。病院が自動運転も病院の施設やサービスの一つとして前のめりに考えることができたならば、持続可能なモデルが描けるのかもしれない。

数年後には、村岡・深沢地区でどのようなモビリティサービスが展開され、地域住民の生活や病院はどのように変わっているだろうか。これからが楽しみだ。

楠田悦子
(Kusuda Etsuko)

モビリティジャーナリスト

心豊かな暮らしと社会のための、移動手段・サービスの高度化・多様化とその環境について考える活動を行っている。 自動車新聞社モビリティビジネス専門誌『LIGARE』創刊編集長を経て、2013年に独立。「交通政策審議会交通体系分科会第15回地域公共交通部会」、「MaaS関連データ検討会」などの委員を歴任。近著に『「移動貧困社会」からの脱却 −免許返納問題で生まれる新たなモビリティ・マーケット』(時事通信社)などがある。