RoAD to the L4 自動運転レベル4等先進モビリティサービス
研究開発・社会実装プロジェクト

四国初! ナビヤ・アルマが走ったまち愛媛県伊予市

愛媛県伊予市の協力の下、BOLDLYは、2022年9月13日から10月9日の間、経済産業省の「地域新MaaS創出推進事業」のひとつとして双海地域で実証実験を行った。

動く社交場として運行する

JR伊予上灘駅を起点に1周約8kmのルートをBOLDLYが運行するナビア・アルマが、日の出日の入りの美しい道の駅「ふたみシーサイド公園」、木造校舎で学びたいと人気の「翠小学校」などを走った。

市の広報の折り込みチラシを見て乗ったという92歳の女性は、お風呂に行くために自動運転バスを使い始めた。乗降する際は段差があるため、乗り込むには乗降のサポートが必要だ。BOLDLYのスタッフが常時乗っていて、そのスタッフが丁寧に手を添えて手伝う。その若いスタッフらと交流することも地元の高齢者にとっては楽しみのようで、毎日にように乗車するそうだ。そして、たまたま他のバス停から乗ってきた乗客との会話にも花を咲かせた。

日常を非日常に変える自動運転サービスの魅力

伊予市やBOLDLYはそれほど力を入れて宣伝をしたわけではない。ナビヤ・アルマが四国地方の公道を走るのは初めてのことで大きく報道されたことや、双海地域は高齢化率50%を超える限界集落であるため人と人とのつながりが強く、口コミですぐに広がったそうだ。

「うちの市の自慢の自動運転バスに乗ってみないと」と近所の友人と乗車した3人組。360度の視界やゆっくり進むスピードのためか、自分の地域が一瞬にして、観光地になったような気分になるようだ「自動運転ってどんなサービスだろう」と興味を持ち、小学校の前から乗る子どもや親子もいた。乗車した住民の皆さんは、自然体でとても楽しそうだと感じた。

地道な実証を120回以上

この実証実験の主体となったのはBOLDLY。自動運転バスとはいえ法整備上、公道を完全無人で走行できないので、ナビヤ・アルマのオペレーターとしての教育を受けたスタッフが乗っている必要がある。

車両を避けて追い越す機能がないため、対向車がいれば手動に切り替える。追い越すために道幅は片側3mは必要のようだ。また、自転車が前方を走っていれば追随しながらの走行になったり、何かを検知すると安全のために止まったりするようになっている。

同社は全国各地で地道な実証実験を4〜5年の間に120地域以上で行ってきた。日本国内で、これだけの数をこなしている企業は他にはないだろう。今はまだいろいろな不自由さがあるが、法整備や車両の性能が上がれば、同社の蓄積してきたノウハウを活かして、移動に困る数多くの地域を救うことができるに違いない。

単なる移動手段を越えて

今回は、BOLDLYとしては初めての取り組みとなる自動運転の活用による外出効果の測定も、ヘルスケアテクノロジーズの協力を得て試みた。

伊予市の担当職員は「予想以上の反響があったため、今後はどうするか考えていきたい。単なる移動手段として考えると1人を送迎するには数万円かかり、コミュニティバスや乗合バスを足した費用よりも高くなってしまう。しかし、自動運転バスはコミュニティの活性化、健康寿命の延伸、観光促進など、単なる移動手段としてではない可能性を感じており、いくつか掛け合わせて可能性を探っていきたい」と話す。

人口減少や少子高齢化の時代において、移動や新技術を使った新しいモビリティサービスを、地方ではどのように捉えていくのか。法整備、技術開発とともに、大切に議論する必要がある。

楠田悦子
(Kusuda Etsuko)

モビリティジャーナリスト

心豊かな暮らしと社会のための、移動手段・サービスの高度化・多様化とその環境について考える活動を行っている。 自動車新聞社モビリティビジネス専門誌『LIGARE』創刊編集長を経て、2013年に独立。「交通政策審議会交通体系分科会第15回地域公共交通部会」、「MaaS関連データ検討会」などの委員を歴任。近著に『「移動貧困社会」からの脱却 −免許返納問題で生まれる新たなモビリティ・マーケット』(時事通信社)などがある。