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研究開発・社会実装プロジェクト

国体に合せた栃木県の実証実験

42年ぶりとなった栃木県での国民体育大会「いちご一会とちぎ国体」にあわせて、栃木県は2022年9月29日から10月11日の期間に自動運転の実証実験を行った。これは栃木県県土整備部交通政策課が中心となって進め、2025年度に本格導入を見据えてノウハウの蓄積や県民の受容性を高める自動運転バスチャレンジプロジェクト「栃木県ABCプロジェクト」の一環だ。

多くの県民に乗ってもらいたい

実施期間については、県内外から大勢の人が訪れ、予測しにくい事態が起こる可能性もある中での実証実験は避けるべきだという声もありそうだが、より多くの人に自動運転バスに乗ってもらいたいと思いから、あえて国体の期間中に実証実験を実施したのだという。

走行ルートは、西川田駅東口から総合運動公園西の片道約700mの往復だ。この区間は歩くと少し距離があるため、およそ平日1日200名、休日1日400名もの人が乗車体験した。スポーツの日の10月10日の祝日の夕方には、バスを待つ列ができていた。

環境に配慮してBYD社製の電気バスを使用

環境に配慮してBYD社製の電気バスでの検証

栃木県は環境に配慮したいちご一会とちぎ国体・とちぎ大会宣言をしたことや、大勢の来場者が見込まれるため、実証実験にはじめて小型の電気バスを使った。

ベース車両はBYD社製のJ6で、自動運転システムは先進モビリティのものだ。運行ルート上の車両前方の障害物や歩行者を検知するステレオカメラやミリ波レーダ、巻き込み確認や車両近くの歩行者と自転車を検知する周辺検知カメラやLiDAR、信号器の認識に使用する信号検知用カメラなどが搭載されている。

定員は座席が15名、立席が4名で、最大19名が乗車できる。1充電あたり、約140〜200km走行が可能だ。

ラウンドアバウトでの走行も試みた。実証で走行したラウンドアバウトは中心の島の周囲を一方向に周回する環状の交差点で、一時停止位置や信号機がない。ラウンドアバウトの外側に、仮設のセンサーなどを置いて、自動運転バスは安全に走行できるタイミングの情報を得て走っていた。

最寄り駅と国体の会場を結ぶ試みで、多くの方が試乗体験

ラウンドアバウト以外にも、交差点で信号の色やあと何秒で変わるのかの情報を信号から得たり、交差点で対向車、歩行者、自転車の情報を受け取ったり路車間協調を行っていた。路上駐車もなかったため自動運転はスムーズで、ドライバーが介入するシーンは非常に限定的だった。取材のため自動運転バスで何度もルートを往復してみたが、自転車が交差点以外を横切ろうとした時に追い越しができないため、ドライバーがハンドルを握っていたのを目撃した程度だった。

このように路車間協調がしっかりしていたことや自動運転システムとの相性のいい電気バスであったためか、走行は滑らかで、乗り心地もよく、安心して乗っていることができた。運行に安定感もあったので、実際に電気バスの自動運転システムを公共交通として活用する場合はどうなるのか、具体的なイメージを持つことができた実証実験だったと感じる。

日没後も自動運転で走行

自動運転バスを運行させるノウハウを蓄積

いろいろな実証実験を見てきたが、自動運転システムなどの技術開発を進める民間事業者などのみで進めると技術実証になりがちだ。交通事業者のみで進めると、技術開発や法整備が整っておらず、新型コロナウイルスの流行で経営が苦しい中で進めるのは、経営の体力的に持たないし、行政の助けが必須となる。また行政が進める場合は、交通政策の担当課のみでも不十分で、路駐対策や路車間協調なども必要となるため道路政策の担当課とともに動く必要がある。

栃木県は、地域、車両、システムを決めて導入をすすめるのではなく、乗務員不足などを見越して、市町村や交通事業者とともに、”自動運転バスを運行させるノウハウを蓄積している点”が他の地域と異なる。担当者らは「技術実証にならないように」と肝に銘じているのだそうだ。また交通政策と土木を担う県土整備部交通政策課が担当している点も評価すべき点だ。

栃木県は2023年度まで、さまざまな車両、システム、路車協調などを検証したり、県民の社会的需要性を上げていく予定だ。2025年度から交通事業者などが自動運転バスを本格導入することを目指す栃木県の取り組みがこれからも楽しみだ。

栃木県ABCプロジェクト「自動運転バスに乗ろう@宇都宮市」

楠田悦子
(Kusuda Etsuko)

モビリティジャーナリスト

心豊かな暮らしと社会のための、移動手段・サービスの高度化・多様化とその環境について考える活動を行っている。 自動車新聞社モビリティビジネス専門誌『LIGARE』創刊編集長を経て、2013年に独立。「交通政策審議会交通体系分科会第15回地域公共交通部会」、「MaaS関連データ検討会」などの委員を歴任。近著に『「移動貧困社会」からの脱却 −免許返納問題で生まれる新たなモビリティ・マーケット』(時事通信社)などがある。