RoAD to the L4 自動運転レベル4等先進モビリティサービス
研究開発・社会実装プロジェクト

地元関係者と力を合せて短期間で実現 高齢者を大切にする太地町のビジョン

太地町は令和3年度の内閣府未来技術社会実装事業の採択を受けて、構想からわずか1年5カ月で自動運転サービスを本格導入した。古式捕鯨発祥の地として知られ、人口は2935人(2022年1月現在)。和歌山県30市町村の中で行政面積はもっとも小さい。

太地町の自動運転サービスはスーパー、病院、役場などを周回する1周3.2kmのルートだ。2台体制で、とくに高齢者が多く居住する家屋が密集したエリアを運行している。

5人乗り(乗客4名)で、運賃は無料だ。タクシーのように手を挙げるフリー乗降制で、太地町のテーマソングで接近を知らせる。最高時速は12kmで電磁誘導線に沿って走行する。

手を挙げるとルート上であれば乗車できる

狭い道を走る車両を探していた

海沿いの町で、アメリカ文化などを持ち込んだ、ペンキ塗りの和洋折衷の家屋が街並みを作っている。歩くのには問題ないが、小さなクルマが1台ぎりぎり通れるような狭い道も多い。そのため、既存コミュニティーバスでは運行することができない。そこで、狭い道でも通ることができる車両を探していた。自動運転サービスでも使用されているランドカーがちょうどいいサイズだった。

高齢者の乗客の乗降の手伝いや見守りも兼ねることができ、手動では狭くて運転ができないところをサポートしてくれる、完全無人ではない半自動とも言える状況がちょうどいいのだそうだ。

筆者は現地を自動運転サービスで巡ったが、手を伸ばせば洗濯物が手に届くし、家の中もよく見えるような狭さで、住民の方ともコミュニケーションが取りやすい。クルマの運転スキルが高くないと、道を通ることすら難しい。そこを電磁誘導線が人に代わり安全を確保しながらランドカーを進めてくれる。

地元関係者と力を合わせられれば実現できる

自治体が行う実証実験の多くは、コンサルティング会社に依頼しているものが多いが、太地町は役場の総務課の職員1名が、紀南河川事務所と相談しながら、和歌山県県土整備部、ヤマハ発動機とともに自動運転サービスを行っている地域を視察し実現させている。「はじめからサービス開始を見据えて実証を行った」と言う。参考にした地域は、近畿で先行してサービスを開始していた滋賀県の奥永源寺渓流の里の自動運転サービスだという。

太地町が描く町のビジョン

町役場は、現在の三軒一高町長が就任したのちに、社会的弱者に対してのまち作りを重点的に行うべきと考え、一人暮らしの高齢者のお宅訪問を行った。

中には「葬式代を貯めている。子どもに迷惑かけたくない」と我慢して健康を害しながら生活をしている高齢者の方がいらっしゃったという。その実情が町長や役場の職員に大きな影響を与え、「誰もが手を携えてもらいたい時に、誰にも手を携えてもらえない挫折感は、言葉にできないものがある。だからこそ高齢者をまちが守っていく必要がある、責任を持ってまち作りをしていく必要がある」と、国民年金で生活できるように環境を整備するなど、高齢者にやさしいまち作りを進めている。

そのために、自動運転サービスはなくてはならないツールなのだという。

太地町のように、集落が密集し、高齢化率が高い地域は、全国にたくさんあるのではないだろうか。横展開が可能なモデルであるため、ぜひ参考にしてもらいたい。

約1年半で構想から実装まで 和歌山県の太地町で実現できた理由

和歌山県の南部に位置する太地町は、高齢者や障がい者にやさしいまち作りを推進している。その一環で自動運転サービスの実装を構想からおよそ1年半で成し遂げた。どのように実現したのか。担当の太地町役場総務課の和田正希氏に聞いた。

楠田 2021年8月に滋賀県東近江市の奥永源寺での自動運転サービスの視察に行かれて、2022年8月9月に実証実験、2022年11月にサービス実装されたそうですね。

和田 全国各地の自動運転の事例を見に行きました。ゴルフ場などでも走っているランドカーを用いた自動運転サービスはそれほど難しくはないので、やる気がある地域は独自に実装できると感じていました。かなりタイトなスケジュールですよね。実装が前提だったのでできたのだと思います。

この事業は内閣府の未来技術社会実装事業に応募して採択を受けています。その関係で地域実装協議会を立ち上げました。現地支援責任者ということで紀南河川国道事務所さんに入っていただいて、何か困ったことがあったら、紀南河川国道事務所に連絡してご相談しました。ヤマハ発動機さんもご紹介いただきました。

関係者の皆さんには太地町に足を運んでいただいて、「このルートは走らせられるかな」とみんなで歩き回ったんです。それを元に図面に落とし込んで、警察に「和歌山県初ですが、このような形で進めさせてもらってもいいですか」と安全対策などをお話ししました。

自動運転サービス導入に尽力した、太地町役場 総務課 和田正希氏にお話を伺った

狭いところを走れるレベル2がちょうどいい

楠田 自動運転サービスといっても、人が運転席に座って、何かあればハンドルを握らないといけませんよね。

和田 狭いところを走るには、半自動のハイブリッド的なレベル2がちょうどいいんです。太地町は和歌山県30市町村の中で一番面積小さく、全国でも12、13番目に小さいまちです。クルマ1台がぎりぎり通れるかどうかといった細い道が多く、そこに高齢者がお住まいです。

町営のハイエースと日野ポンチョも走っています。ポンチョでまち全体を回って、ハイエースで細かいところをカバーしようとしたのですが、それでも回りきれなかったのです。

狭いところを走ることができ、手動運転でも難しいところをサポートしてくれ、ゆっくり走る。日々みなさん元気でお過ごしか、人が乗って確認することができるレベル2のランドカーちょうどいいです。

楠田 7人乗りの大きめのランドカーがありますが、5人乗りで小さいですね。車両の大きさや時刻などはどのように決めたのですか?

和田 はじめは7人乗りを想定していたのですが、道幅が狭くて導入が難しく、5人乗りになりました。実証実験のときに1台で45分に1回走るようにしたら、乗り切れないことがあるのがわかりました。また、まちの中心にある漁業スーパーで買い物をしたおじいちゃんおばあちゃんに「店の中でバスをどれぐらい待っているんですか」と聞くと、「30分話している人はたくさんいるよ」という声がありました。

20分に1本走らせれば、満車で乗れなくても、20分程度なら待ってもらえるだろうということで2台体制にしました。

よく利用される方は、この車両のことを”マイカー”って言ってくださいます。最初は社会的受容性の問題を気にしていましたが、わずか3カ月で受入られてきていると感じています。

狭路が多い太地町の街並みにあわせて、あえて5人乗りのランドカー2台を導入した

楠田悦子
(Kusuda Etsuko)

モビリティジャーナリスト

心豊かな暮らしと社会のための、移動手段・サービスの高度化・多様化とその環境について考える活動を行っている。 自動車新聞社モビリティビジネス専門誌『LIGARE』創刊編集長を経て、2013年に独立。「交通政策審議会交通体系分科会第15回地域公共交通部会」、「MaaS関連データ検討会」などの委員を歴任。近著に『「移動貧困社会」からの脱却 −免許返納問題で生まれる新たなモビリティ・マーケット』(時事通信社)などがある。